「オギャー、オギャー。」
「はははーーーーー。」みんな笑いました。
「なんだよーーー。」
のび太は言いました。やがて、のび太の10年は終わりました。
「あれ?」みんなが言いました。
「なんでのび太の時いったん真っ黒になったんだ?」
「そういえば、そうだね。」
「ドラえもん、どうして?」
のび太はドラえもんに聞きました。ドラえもんは、急にそわそわして、「いいの!それは。」
みんなは
「どうして!どうして!」
としつこく聞きました。ジャイアンが言いました。
「あ!わかった。のび太が寝小便たれたんだ。だからドラえもんがわざと隠したんだ。」
のび太は
「ちがうよ。」
「ドラえもんちがうよね。」
ドラえもんは
「ちがうよちがうよ。」
と言いました。
「それじゃ、みせろよ。」
ジャイアンとスネオが言いました。あまりのしつこさにドラえもんが言いました。
「ちがうよ。これはのび太くんと僕の秘密なんだ。みんなにはみせられないんだ。
これを見せれば僕とのび太くんがもう会えなくなってしまうんだ。」
そんな秘密があるなんて今まで知らなかったのび太は
「そんなの聞いてないよ。」
しずかちゃんがいいました。「会えなくなるのなら、私たちだって困るから、見るのやめようよ。」
でも、のび太はしつこくいいました。
「僕のつごう悪い事なの?」
「いや、そうじゃないけど・・・」
「じゃ 見せてよ。」
「・・・」
「ドラえもんのばか!今みせてくれなきゃ、一生ジャイアンにいわれてしまうじゃないか!」
「ドラえもんなんか嫌いだ!」
「もうドラえもんなんかいなくていい!」泣きながらのび太は言い続けました。ドラえもんは悲しい顔で言いました。
「そうだね、のび太くんにとって、良いことなんだからね。本当に見たい?、本当に見たい?」何度も繰り返し言いました。「僕に良いことだったら見たいに決まってるじゃないか!!
「会えなくなってもいいから見させてよ。」
のび太は言いました。のび太の心には、見てもドラえもんに会えないはずは無いと信じていたからです。
「・・・うん・・・本当にいいんだね?」
「いいよ。」
「・・・わかった。見よう。」
ドラえもんはもう一度のび太の体に機械をつけようとしました。
「本当に、いいんだね、いいんだね?」
ドラえもんは何度も言いました。
「ドラえもんしつこいよ。」
とのび太が言いました。ジャイアンも言いました。
「ドラえもんしつこいぞ。」
スネオも言いました。
「ドラえもんしつこいよ。」
しずかちゃんがいいました。「のび太さん、本当にいいの?」
「いいんだよ。」のび太がそう言うとドラえもんはのび太の体に機械をつけました。そのとき、近くの交差点のブロック塀の陰から、のび太のお母さんとお父さんがのぞいているのがのび太の眼にうつりました。
お父さんとお母さんは何か言っているように、のび太には感じました。「ドラちゃん・・・いままで ありがとう・・・・・・」
のび太にはやな予感がしました。
「やめよう。いままでどうりでいいよ。ばかにされてもいいよ。やめよう。」
ドラえもんは言いました。
「のび太くん遅いよ。のび太くんもう遅いよ。」
ドラえもんの眼から大粒の涙がこぼれていました。その涙は止まる事はありません。
「さようなら、さようなら、さようなら・・・」
のび太の眼からも、訳がわからず涙がこぼれ落ちました。
「やだよーーーー」
「やだよーーーー」
「やだよーーーー」
ドラえもんの姿がどんどん薄くなっていきました。のび太は流れる涙のせいだと思いました。
「あーーードラちゃんが消えていく!」
しずかちゃんが叫びました、
「ほんとうだ、ドラえもんが消えていく!」
「ドラえもーーーん」
「ドラえもーーーん」
ジャイアンとスネオも叫びました。のび太は
「やだよーーードラえもん」
「やだよーーードラえもん」
と言い続けていました。真っ黒い空白の一日がみえ始めました。真っ青に晴れたセミの鳴く普通の一日です。